ガンマ先生週末にサクッと読めて、でも一生記憶に残るような、そんな都合のいい漫画ないかな?」 あります。ここにありますよ!
突然ですが、皆さんは「漫画の巻数」で読むのを躊躇したことはありませんか?ちなみに僕はめちゃくちゃあります。
「30巻以上あるのか…時間もお財布も厳しいな…」 そう思って名作をスルーしてしまう。それは現代人にとって切実な悩みであり、同時にあまりにも勿体ない機会損失です。
でも、今日紹介する漫画は違います。 全5巻。 たったの5冊です。 朝読み始めたら、昼過ぎには読み終わっています。
しかし、断言させてください。 読み終わった時の満足感、そして脳みそが痺れるような衝撃は、100巻続く大長編漫画にも全く引けを取りません。 むしろ、5巻で終わらせたことにこそ、この作品の真価があります。
今回紹介するのは、篠原健太先生の『彼方のアストラ』。 2019年に「マンガ大賞」を受賞し、アニメ化もされたSFサスペンスの金字塔です。
「宇宙遭難もの?」「少年たちの冒険?」 そう思ったあなた。半分正解で、半分は大間違いです。 この物語には、あなたの常識をひっくり返す「とんでもない秘密」が隠されています。
今回は、この奇跡のような全5巻について、前半はネタバレなしでその魅力を、後半はネタバレ全開で伏線の凄さを徹底的に語り尽くします。


彼方のアストラとは? ギャグとシリアスの黄金比が生んだSF
まずは、まだ作品を知らない方のために、基本的な設定とあらすじを紹介します。 作者は『SKET DANCE』で有名な篠原健太先生。 ギャグとシリアスのバランス感覚が世界一上手い漫画家さんだと、僕は勝手に思っています。
あらすじ:キャンプに行ったら宇宙の彼方へ
物語の舞台は、宇宙旅行が当たり前になった近未来(2063年)。 ケアード高校の生徒たち9名は、学校行事である「惑星キャンプ」のために惑星マクパへと旅立ちます。
メンバーは、ケアード高校の各クラスからランダム(と思われた)に集められた、個性豊かな男女9名。 わくわくしながらキャンプ地に到着した彼らを待っていたのは、謎の「光の球体」でした。
その球体に飲み込まれた彼らが次に目を開けた場所。 それは、キャンプ地ではなく、5012光年離れた宇宙空間だったのです。
「ここはどこだ?」 「宇宙服の酸素が持たない!」
パニックになる中、近くに浮かんでいた無人の宇宙船(後に「アストラ号」と命名)になんとか逃げ込んだ彼らですが、そこは故郷からあまりにも遠い場所。 水も食料も限られた極限状態で、彼らは「5つの惑星を経由して、水と食料を補給しながら故郷へ帰る」という、無謀な旅に出ることになります。
SKET DANCEの篠原健太先生だから描けた「会話劇」
極限状態のサバイバル…と聞くと、ギスギスした重い展開を想像するかもしれません。 『漂流教室』のような悲壮感をイメージする人もいるでしょう。 でも、この作品は違います。
篠原先生の持ち味である「軽妙な会話劇」と「コメディセンスが遺憾無く発揮されています。 死と隣り合わせの状況なのに、彼らの会話はどこか抜けていて、笑える。 ボケとツッコミのテンポが良すぎて、読んでいて暗い気持ちになりません。
「シリアスな中にユーモアがある」のではなく、「ユーモアがあるからこそ、シリアスな場面がより際立つ」のです。 このバランス感覚こそが、『彼方のアストラ』を一気読みさせてしまうエンジンの正体です。
メンバーの中に「裏切り者(刺客)」がいる緊張感
ただの冒険譚なら、ここまで話題にはなりません。 この物語を「傑作ミステリー」へと昇華させているのが、「刺客(裏切り者)」の存在です。
遭難直後、彼らは気づきます。 「あの球体は、自然現象じゃない。誰かが意図的に僕らを殺そうとして呼び出したものだ」と。
そして、状況証拠から導き出される結論は一つ。 「この9人の中に、僕らを殺そうとしている犯人がいる」
明るくて頼れるキャプテン?
頭の切れる天才少年?
おっとりした美少女?
皮肉屋のあいつ?
全員が仲間であり、全員が容疑者。 協力してサバイバルしなければ生き残れないのに、隣にいる仲間が自分を殺そうとしているかもしれない。 通信機を壊したのは誰か? 船のシステムをいじったのは誰か? この疑心暗鬼が、物語に強烈なインパクトを与えています。
未読の方へ:一気読み不可避な3つの「完璧な理由」
「5巻なんて、すぐ終わっちゃうじゃん」 そう思った方。甘いです。この5巻は、そこらへんの漫画の20巻分に相当するといっても過言じゃありません。
1巻ごとの密度が異常。無駄なコマが1つもない
読み返すとわかりますが、この漫画、第1巻の第1話から、全てのコマに伏線が張られています。 キャラクターの何気ない一言、背景に描かれた小物、Tシャツの柄、視線の動き。 全てに意味があります。
「週刊連載でライブ感で描いている」のではなく、「結末までのプロットを完全に作り込んでから描き始めた」作品だからこそ成せる技です。
作者の篠原先生自身、「5巻で綺麗に終わるように計算して描いた」と語っています。 それはまるで、精巧に作られたパズルのピースが、パチパチとハマっていくような快感。 中だるみする暇なんて、1秒もありません。
B5班(チーム・アストラ)の9人が愛おしすぎる
最初はバラバラだったB5班のメンバーたち。 彼らは旅を通じて衝突し、理解し合い、絆を深めていきます。
カナタ: 運動能力抜群で、熱血漢のキャプテン。
アリエス: 映像記憶能力を持つ、天然系ヒロイン。
ザック: IQの高い天才科学者。操縦士。
キトリー: ツンデレなお嬢様。医者の娘。
フニ: キトリーの義理の妹。マスコット的存在。
ルカ: 手先が器用な芸術家肌。ある「秘密」を持つ。
ウルガー: クールで協調性のない一匹狼。射撃の名手。
ユンファ: 引っ込み思案で目立たない少女。
シャルス: イケメンで生物知識が豊富な雑学王。
全員に見せ場があり、全員に成長物語があります。 特に後半、あるキャラクターが才能を開花させるシーンや、過去のトラウマを乗り越えるシーンは涙なしでは読めません。 5巻読み終わる頃には、彼ら全員が「親友」のように思えてくるはずです。
未知の惑星へのワクワク感
ミステリー要素だけでなく、「SF冒険もの」としても超一流です。 彼らが立ち寄る惑星は、それぞれ全く異なる生態系を持っています。
- 巨大な植物が生い茂る森の惑星
- 海しかないリゾートのような惑星
- 常に強風が吹き荒れる過酷な惑星
そこで未知の生物を調査し、食べられるものを探し、水を確保する。 『ドラえもん』の映画のようなワクワク感。 「次はどんな星に行くんだろう?」という子供のような好奇心を、この漫画は思い出させてくれます。
ネタバレ全開:物語を覆す「3つの衝撃的真実」を徹底考察
それでは、あの怒涛の展開について、じっくりと夜が明けるまで語り合いましょう。
衝撃1:「地球」だと思っていた場所が「地球」じゃなかった
物語中盤で明かされる最大のどんでん返し。 彼らが「故郷」だと思って帰ろうとしていた星は、「地球」ではなく、移住先の惑星「アストラ」だったという事実。
このトリックは巧みでした。 彼らは「2063年」に生きていると思っていましたが、実は惑星アストラ側の政府が西暦を100年戻す形で歴史教育を作り替えており、外の真実と照合すると実質2163年に当たります。
かつて地球は小惑星の衝突により滅亡の危機に瀕しました。 人類はワームホール技術を使って、環境の似た惑星アストラへ移住。 しかし、その移住の混乱を防ぐため、あるいは宗教的な理由から、政府は「ここが地球である」という情報操作を行い、歴史を改竄(かいざん)していた。
教科書で習っていた歴史が嘘だったと知った時の、ザックたちの絶望感。 読んでいる僕たちも、「え?じゃあ今までの前提は全部嘘?」とひっくり返されました。 冒頭の「出発」のシーンから、彼らは一度も地球になんていなかったのです。
衝撃2:B5班メンバー全員が「クローン」だった
そして明かされる、彼らが集められた本当の理由。 B5班の9人は、偶然集められたクラスメイトではなく、全員が「親のクローン(若返り用の器)」だったのです。
- ゲノム管理法が制定され、クローン製造が発覚すると逮捕される状況になった。
- 親たちは、証拠隠滅のために子供たち(クローン)をまとめて宇宙旅行に行かせ、始末しようとした。
胸糞が悪すぎる手今思い出しても吐き気が。。。 親だと思っていた人間が、自分を「部品」としか見ていなかった。 しかも、自分を殺そうとしていた。 この残酷な真実を突きつけられた彼らのアイデンティティ崩壊の危機。
「自分はオリジナルではない。コピー人間に過ぎないのか?」 この重いテーマに対し、彼らはお互いの存在を認め合うことで乗り越えます。 オリジナルとクローンは、DNAは同じでも、育った環境も記憶も違う。 「俺たちは俺たちだ」という叫びが、SFという枠を超えて「個の尊厳」を訴えかけてきます。
衝撃3:刺客(裏切り者)の正体と、そのあまりに悲しい動機
刺客の正体は、まさかのシャルス・ラクロワ。 イケメンで博識、頼れる参謀役だった彼が、実はヴィクシア王国の王のクローンであり、親(王)の命令で全員を抹殺しようとしていた実行犯でした。
彼だけが唯一、「全ての真相(地球滅亡、移住、クローン)」を知っていました。 彼はずっと孤独だった。仲間と笑い合いながら、腹の中では「こいつらを殺さなきゃいけない」「でも殺したくない」という葛藤に引き裂かれていた。
だからこそ、正体がバレて自殺を図ろうとするシャルスを、カナタが”物理的に”止めるシーンが刺さります。 シャルスを助けるためにカナタが右腕を失うほどの代償を払ってでも、「生きろ」「仲間でいろ」を貫く。ここはセリフ以前に、行動が全部を語っていて、名場面として語り継がれるのも納得です。
王の命令なんて聞くな。俺の命令を聞け。 俺がお前の新しい王になってやる。 このカナタの無茶苦茶だけど熱すぎる論理。 シャルスが初めて本音で泣き崩れるシーンは、漫画史に残る名場面です。
保存版:アストラ号・惑星探査ログ(旅行記)
彼らの旅は、過酷でありながら、どこか楽しそうでした。 ここでは、彼らが立ち寄った惑星と、そこで起きた出来事を詳細に振り返ります。
惑星ヴィラヴァース(遭難地点・樹海)
環境: 地球の亜熱帯に近い気候。巨大な樹海が広がる。
生物: 「パラポネラ」に似た肉食の巨大昆虫や、空を飛ぶ鳥類が生息。
食料: ドラゴンフルーツのような果実を発見。水分補給に成功。
出来事: ここで彼らは初めて「球体」から逃げ延び、アストラ号を発見しました。 まだお互いを信用しきれていない中、カナタがリーダーシップを発揮し始めた場所です。 最初の食事シーンで、謎の粘液まみれになったりしながらも、「生きるために食べる」というサバイバルの基本が描かれました。
惑星シャムーア(キノコと死の森)
環境: 全体が紫がかった幻想的な植物に覆われた星。
生物:グルッピー。リスとウサギを足したような小動物。めちゃくちゃ可愛い。後にアストラ号のペットになる「ポーラ」もここで保護された。
出来事: 一見美しい森ですが、実は毒性のある植物の胞子が充満している「死の森」でした。 キトリーとザックの幼馴染コンビによるラブコメ展開(実は婚約者だった発言)がありつつも、毒に侵されたメンバーを救うための解毒剤探しというミッションが発生。 シャルスの生物学的知識が光った星でもあります。
惑星アリスペード(楽園と海)
環境: ほぼ海と島だけの、リゾート地のような惑星。
生物: 甲羅を持った魚類など、海洋生物が豊富。
出来事: つかの間の休息回(水着回)。 しかし、ここで物語の核心に関わる重要なカミングアウトがありました。 ルカが、自身の体が「ISD(インターセクシャル)」であることを告白。 男でもあり女でもあるという身体的特徴を明かしたルカに対し、メンバーがあっさりと「それがどうした?」と受け入れるシーン。 このチームの多様性受容力の高さが示された、感動的なエピソードです。
惑星イクリス(暴風と巨大植物)
環境: 自転と公転が同期しており、常に同じ面が太陽を向いているため、昼側と夜側の境界で強烈な暴風が吹き荒れている。
生物:移動するアストラ号を捕食しようとするほど巨大で凶暴な植物。
出来事: アストラ号が植物に捕まり、崖に衝突して航行不能になるという最大のピンチ。 そこで彼らは、自分たちとは別の遭難船アーク6号を発見します。 そこで冷凍睡眠状態だった女性宇宙飛行士、ポリーナ・リヴィンスカヤを救助。 彼女の口から語られる「西暦2063年」という言葉と、アストラ号のメンバーの認識する「2063年」のズレから、世界の真実が少しずつ見えてきます。
惑星ガレム(最後の経由地・遺跡)
環境: 地球によく似た緑豊かな惑星。
生物: 巨大なワーム型の生物が生息。
出来事: カナタは三たび謎の球体に襲われますが、罠を仕掛けて刺客(シャルス)を追い詰めることに成功します。 全ての謎が繋がり、刺客(シャルス)との最終決戦が行われた、運命の場所です。
B5班メンバー完全解析ファイル
たった5巻で、これほど深くキャラクターを愛せる作品はありません。
カナタ&アリエス(希望の光)
カナタ・ホシジマ(キャプテン)
陸上十種競技のアスリート。最初は「空回りする熱血バカ」として描かれましたが、その行動力と判断力で真のリーダーへ成長。 彼の「サバイバル能力」は、遭難した伝説の冒険家の父から受け継いだものでした。 右腕を失ってでも仲間を守る姿勢は、まさにヒーロー。
アリエス・スプリング(記録係)
「オトボケ」担当の天然少女。よく言葉を言い間違える。 しかし、彼女の「映像記憶能力」こそが、チームを救う最大の武器でした。 彼女がヴィクシア王女(セイラ)のクローンであり、シャルスにとっての「守るべきオリジナル(の写し身)」であったことが、最後の悲劇を防ぐ鍵となりました。
ザック&キトリー(幼馴染の絆)
ザック・ウォーカー(操縦士)
IQ200の天才。宇宙船の操縦免許を持つ。 常に冷静で、感情的なメンバーのストッパー役。 キトリーに対してだけ見せる不器用な優しさが尊い。
キトリー・ラファエリ(船医)
大病院の令嬢。知識はあるが実戦経験のないお嬢様。 最初はワガママでしたが、旅を通じて「誰かのために動く」喜びを知ります。 ザックとのカップル成立は、全読者がガッツポーズしました。
フニ、ルカ、ウルガー、ユンファ(個性の開花)
フニシア・ラファエリ(マスコット)
キトリーの義理の妹。 彼女が持っていた人形「ビーゴ」の中に、実は重大な通信チップが隠されていました。 アニメ版のエンディングでの成長した姿が美しすぎる。
ルカ・エスポジト(職人)
手先が器用で、船の修理や道具作成で大活躍。 ISDであることを隠さず、明るく振る舞うムードメーカー。 ウルガーとの凸凹コンビが最高。
ウルガー・ツヴァイク(射撃手)
皮肉屋で協調性ゼロの一匹狼。 兄を殺された恨みで、ルカの父を憎んでいましたが、誤解が解けてからは一番頼れる戦闘員に。 前髪を上げた時のイケメン具合は反則級。
ユンファ・ルー(歌姫)
自分に自信がなく、目立たないようにしていた少女。 しかし、惑星イクリスで勇気を出して歌を歌い、音波で植物を誘導して仲間を救います。 最終回で自信に満ちた歌手になっている姿は、この旅の成果そのものです。
タイトルに隠されたギミックとSF考証
『彼方のアストラ』が「構成の鬼」と呼ばれる理由の一つが、タイトルや設定に仕掛けられたギミックです。
「ASTRA LOST IN SPACE」のアナグラム
『彼方のアストラ』の仕掛けで確実に唸るのが、タイトル周りの二重三重の意味です。 まず本作は英題がASTRA LOST IN SPACE(宇宙で遭難したアストラ)で、物語そのものをズバリ言い当てています。
さらに作中の惑星名はアナグラムになっていて、
マクパ(MCPA)=CAMP
ヴィラヴァース(VILAVURS)=SURVIVAL
シャムーア(SHUMMOOR)=MUSHROOM…と“その星の性格”を示唆する遊び心があるんです。
ファンブックや最終巻での演出を含めると、さらに深い意味が読み取れます。 最初から最後まで、作者の手のひらの上で転がされていたわけです。 この知的快感こそ、SFミステリーの醍醐味ですよね。
ワームホールと反重力シューズの科学
作中の装備は、なんでも魔法で解決する系じゃなくて、ちゃんと”作中ルール”で動いています。 たとえば船外活動で使う宇宙服は「クラフトスーツ」と呼ばれる装備で、ヘルメットとスラスターが一体になったカジュアルな宇宙服として描かれます。
そしてあの「球体」は、物体を別座標へ飛ばすという特徴から、作中では“人工ワームホール”とみなせる性質として整理されていきます。 だからこそ、最後の「ワームホールを使ってシャルスを救出する作戦」に説得力が生まれました。
まとめ:血の繋がりなんて関係ない。僕たちは「家族」だ
『彼方のアストラ』は、SFサスペンスという皮を被った、「究極の家族愛」の物語です。
親に捨てられたクローンたち。 血の繋がりもない、生まれも育ちも違う9人。 でも、苦難を乗り越え、食卓を囲み、命を預け合った彼らは、間違いなく「家族」でした。
現代社会において、「家族とは何か?」「絆とは何か?」という問いに対する、これ以上ないほど温かい答えがここにあります。
読み終わった後、夜空を見上げてみてください。 きっと、あの星のどこかで、カナタたちが新しい冒険をしている姿が目に浮かぶはずです。



たった5巻で、こんなにも遠い場所へ連れて行ってくれた篠原先生にBigLoveを捧げましょう。さて次回は「地獄のような鬱と考察」の世界へご案内します。『タコピーの原罪』について語ります。メンタルの準備をしておいてください…。




コメント